第12回

今まで歯と全身とのかかわりや歯の話をしてきました。現代医学では歯科と医科に分かれており、1つの体を歯科と医科では別々の先生がみます。歯科と医科の境にある病気は、歯科からくる医科の病気なのか、医科からくる歯科の病気なのかはなかなかみわけることができません。

とえば、あごが痛いとき耳や目まで痛くなるときがあります。一般の人はあごが痛いとどこに行っていいかわからないですよね。あごの痛みの原因はむし歯、歯肉の病気、関節の痛み、あごの筋肉の痛みなどが一般的ですが、耳や目、しいては頭まで痛くなることもあります。頭や耳が痛いので耳鼻科や脳外科に行っても原因がわからないことがあります。歯や歯肉、あごの筋肉、関節からの原因で痛みが出ているからです。

た、目の知覚は三叉神経の眼神経といって歯をつかさどっている神経と同じ神経です。同じ神経系統で他の場所に痛みの原因があると他のところで痛みを感じてしまうことを関連病といいますが、あごの関節の痛みや筋肉痛が出ると、耳の痛みとまちがえることがあります。耳の少し前方にあごの関節と、耳のまわりにあごを動かす筋肉があるからです。

し歯や歯肉の痛みがひどいと頭が痛くなったりするのは経験された方は多いと思いますが、そのときむし歯が大きかったり歯肉がはれていれば、それが原因だとわかりますが、むし歯が見えない場所にあると歯が原因であることを見落としたりします。

が原因による頭痛だと思われる例として、かみ合わせが悪いということもあげられます。かみ合わせが悪いと顔の筋肉の左右どちらかに筋肉疲労が出ます。その疲労は筋肉の痛みとして出ます。あごの筋肉、ひいては首の筋肉にまで障害が出ることもあります。首のまわりのこりや肩のこりとして、症状はだんだん悪くなり頭痛を引き起こします。首には左右にけい動脈という動脈が流れています。血液中のヘモグロビンは酸素を運んでいるため、これらの動脈がこりによって流れが悪くなると、酸素の量が少なくなって頭痛が出るのです。ちょうど高い山にのぼって酸素が少なくなって頭痛やはき気をもよおすのと同じ症状が出ます。

し歯や歯槽のう漏によっても身体に悪影響が出ます。むし歯や歯槽のう漏はなりにくい人となりやすい人がいますが、それを局所的ととらえないで全身的で考えることが大切です。食生活や精神状態で体調の不調和がひどくなることがあるからです。

体は肉体と心にわけることができます。一般に「心」と言われるところは「思考」です。本来心というものは別のところにありますので、思考はいくらでも変えられるし、食生活もいくらでも変えることができます。むし歯や歯槽のう漏はひどくならないようにすることはできますが、一度むし歯で歯がこわれてしまうと復元することはできません。人工的に治すしかないのです。また、歯槽のう漏もあまり進行がひどいと歯を抜かなければなりません。毎日の生活を、食と思考を変えることによって健康は維持されます。
<2001.3.1>
「歯からしあわせ。」は今回で連載終了です。ご愛読ありがとうございました。

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