僻地に生きる歯科医
わかりにくい用語?
日、国立国語研究所が「わかり難い医療用語736語」について発表した。新聞によると「医師を対象とした調査で患者にわかりにくかった言葉」として736語を挙げている。このなかで、どう考えても「患者サイドの国語力不足ではないのか?」と思う例があった。報道によると、「悪性腫瘍」という意味がわからず、悪性腫瘍である旨を伝えたら「ガンじゃなくてよかった」と言われたとある。また「陰性・陽性」という意味がわからず、「インフルエンザ陽性です」と言ったら「インフルエンザでなくてよかった」と言われたという。中には「合併症」を「医療ミス」と思っている方がかなりいることもわかった。そういえば、当院に通院している糖尿病のコントロールが悪い患者さまが、「あそこの内科の先生はダメだ。あの先生のおかげで糖尿病の合併症が悪化した」とぼやいていたことを思い出した。

学用語とは難しい。それにやたらと漢字が多い。特に解剖関係の言葉は難しい。酒の席で解剖学の先生に「どうして解剖用語は難しい漢字が多いのですか?」と聞いたことがあった。なんでも「江戸時代、享保の改革で漢訳された洋書を解禁したことに起因している」そうだ。でも難しい言葉にはメリットもある。というのは、意味がブレにくいのである。簡単な言葉は、往々にしてさまざまな解釈が生まれる可能性がある。

て、この調査の報道を見て1つ気になることがある。この調査は「医師に聞いて」作っているのである。最近こういった調査では「歯科」ははずされる傾向がある。偶然かもしれないが、私のような小人は一連の「デンタルバッシング」かもしれないと邪推してしまう。

ころで、歯科の用語もけっこう難しいのだ。それに名称なども独特だ。「クラスプ」「印象」「セット」「セメント」「エッチング」など、我々だって簡単に説明するのは難しいと思える言葉も少なくない。だから「下手に患者さまに説明をすると、かえって患者さまを混乱させる」という考え方が、医療従事者の間にあるような気がする。私も経験するのだが特に自費診療などで詳しく説明した患者さまに限って、自費診療の契約に結びつくケースは少ない。私の知り合いの弁護士先生は、「初回に値段の話をしたクライアントとは、無条件で仕事を引き受けなかった」と豪語していたことを思い出した。

ら、わかりやすい言葉で説明すると良いことばかりかというと、そうでもない。「認知症」という言葉がやっと社会的にそれこそ認知され始めた頃に、私は特定の高齢者に認知症を「痴呆症」と敢えて言っていた。その方は受付で「先生は痴呆症と言っていたが最近では認知症と言うんだよ。先生にもう少し勉強するように言っておいてくださいな。院長といえども一生勉強してください。」と言われたことがあった。おそらくそこの家庭では、私は「勉強不足の歯科医師」ということになっていることだろう。

かし、中には笑ってしまうものもある。キシロカインのような「局所麻酔薬」を麻薬と勘違いしているスタッフがいる。歯科衛生士の中にも、「麻薬」の一種だと思っている方がいる。麻酔は麻薬ではないので、正しい理解をしてほしいと思う。

ういったわかりにくい言葉といえども、問題は「患者さまの国語力」にあると思う例が少なくない。以前に「今度、今お使いの歯ブラシをお持ちください」と案内した。ところが次回の診療でその方は歯ブラシを持ってこなかった。なんでも「今度」を「いつか」と自分なりに解釈し、「次回は持ってこなくてもよい」という意味に理解したそうだ。また、最近若い人を中心に「咬む(かむ)」という行為がわからない方が増えてきた。高校の検診で、「咬むとはどのようなことなのですか?」と質問されたことが1回や2回ではなかった。おそらく、家庭での食事のあり方が大きく変わったのだろう。

もわかりにくい用語を使うのは、なにも医療従事者ばかりではない。患者さまの言葉もわかりにくいことがかなりある。主に症状を表現する方言であるが、なかには病名の方言もある。こういった方言は知識として知っておかないと、大災害等の時に都市から応援にかけつける医療チームのメンバーは非常に困ることがあるそうだ。実際にある先生が大地震の被災地での医療活動に支障を来たし、その経験をまとめて発表したことがあった。
・アゲがずって痛い〜
上の義歯が咬むたびごとに動いて、そのため義歯がすれて痛い
・ しかも良いです〜
前回より症状がかなり改善しましたが、まだ少し改善の余地はあります(本当に良い時には「バカ良い」と言う)
・ ムンとする〜
軽度な痛み(ダルペイン)が続くこともあれば続かないこともある
・ しもる〜
「しみる」に近いが集落によっては「痛い」と「痛くない」とにわかれるのでしっかり聞くことが大切。また、他地域から嫁いだ方の場合には、生まれ育った地域の言葉が優勢となるのでしっかり確認することが大切!
・ ガオる〜
発熱性の消耗疾患などで全身疲労困憊な様
・ つづらご〜
帯状疱疹のこと、「つづれご」とも言う
て、みなさんはどれだけおわかりでしたか?
<2008.4.2>

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