僻地に生きる歯科医
口腔ケアを叫んで10年が経ちました〜介護施設で「口腔ケア」の感じ方に温度差が・・・・〜 その2
々回の続き……
さて、中間施設でそれなりの成果がでたので、今度は特別養護老人ホームにこの話を持っていった。ところで、中間施設と特別養護老人ホームでは、制度の違いはもちろんのこと、働いている人たちの意識にも天と地ほどの違いがあることをみなさんはご存知であろうか?

くまでもこれは私の地元での話であるが……中間施設は、介護保険を見据えて出来た施設だ。入所者は社会に戻ることを前提として生活することになる。スタッフの出身も様々で、過去の職業も様々である。ただ入所者とスタッフに共通していることは、「サービス業」であるということを(例外はあるものの)認識している点である。スタッフが入所者を「お客さま」と言っている所も少なくない。

れに対し、特別養護老人ホームの場合は、もともと福祉施設(処置施設)として発展した。施設の責任者は、市町村長であることが多かった。そのため特別養護老人ホームは公営(最近では民営化が急速に進んできたが)で、スタッフは公務員であることが多い。しかも、組合活動が活発な事業所であることが多い。こういった所では、とにかく仕事上の上下関係がしっかりしており、「いかにして新しい仕事を他の人にフルかが最大の仕事」という、情けないとしかいいようがない状態になっている。その上、そこに組合が入りこんでおり、更にその組合をとりまく地方議員がいる。いろいろな思惑が絡みすぎて、新しいことができない状況にある。

あるから、入所者を「お客さま」とする考え方は、民間の特別養護老人ホームにはあっても公営には風土的になかなか根付かないのである。「行き場所のない老人を収容してあげている」という考え方が、いまでも支配的である。

た、特別養護老人ホームでは、保健師、看護師、介護スタッフ(有資格者)、介護スタッフ(無資格者)、事務職はそれぞれ別の考え方や世界があり、お互いの連携は最小限になっている。私の地元では、介護スタッフは「平日のスタッフ」「時間外・夜間のスタッフ」「休日のスタッフ」に分かれていることが多く(ローテーションを組んでいるケースが意外と少ない)、しかもそれらの連絡はしっかりしていない。同じことを保健師、看護師、介護スタッフ(平日・夜間・休日それぞれ)、事務職にそれぞれいわないと、用件がなかなか伝わらないのが実情だ。

腔ケア導入を語る際に一番困るのは、施設長にコスト意識が全く無く、「福祉施設は学校や消防と同じで町には絶対に必要なもの。だから赤字を町税で負担して当然!」という意識が蔓延していることだ。公営の特別養護老人ホームの施設長は、「施設長になることが左遷」と感じている方が多いようで、「建設課にいて賄賂をもらったという噂がたったので、特別養護老人ホームへ配置になった」「幹部にカラクチをきいたから・・」などのもっともらしい噂が周囲にあり、何事も穏便にすごしたいと考えている。

んなわけだから、中間施設の事務長への説得は、全く役に立たないことになってしまった。こうして公立の特別養護老人ホームに対する口腔ケアのアプローチは、完全に頓挫してしまったのである。

た、こんなこともある。公営施設の場合は、行政の支援や民間の寄付が多い。ある町では、入浴車が駐車場に放置されたままになっている。介護保険事業がスタートしてから、訪問入浴事業を止めてしまったからなのだ。さらに買い物などに使っている車は、本来は「通院が困難な町民を医療機関に運ぶ車」であるはずのもので、それがなぜかあたかも施設のスタッフの車のような使われ方をして、せいぜいのところ特別養護老人ホームの入所者の通院時にわずかに使われているのだ。リハビリはとうの昔に止めたので、リハビリルームは職員の昼寝の場所になっている。また、寄付をしてもらった車椅子は、特別養護老人ホームに入所する方はほとんど寝たきりなので出番がなく、20台以上が埃を被っている。車椅子が必要な施設では、車椅子不足で悩んでいることを知っているのでうらやましい話である。ここでの車椅子は、退所する時の私用品の運搬に使われる程度である。

れは私の経験であるが、公営の施設は、研修などを行って中を公開することを嫌がる。つまり、自分たちの仕事ぶりが介護の時流から遅れつつあることは知っているが、こういった状況を打破するという気概がないことを知られたくないのである。だから、よその施設に見学や学習に行っても、自分のところで行うことはご免なのである。

ういう風土と考え方のところに口腔ケアを導入させてゆくことは、非常に難しい。かくして私の口腔ケア大作戦は、数回チャレンジしたものの頓挫してしまったのである。
<2007.10.3>

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