僻地に生きる歯科医
介護保険の誤解

護保険も紆余曲折はあるものの、次第に定着しつつある。ある歯科関係の雑誌によると、介護保険導入後、在宅訪問診療(往診)の需要は大幅に増えると考えていたが、いざフタをあけてみるとそれほどではなく、それどころか逆に検診などは減っているらしい。

く考えてみると当たり前の話である。介護保険導入前後、どれだけ介護保険施設等が利用者を集めるのに努力したのか考えてみてほしい。それに比べて歯科はどれだけの努力をしたのだろうか?しかし、その中でも着実に努力した歯科診療所ではそれなりの実績をあげている。

ころで、介護保険のしくみをみなさんどれだけ御存知であろうか?保健所に聞いても当の担当官すらよくわからないそうだ。そういったシステムだから現場でも相当な混乱が一部であるらしい。

日、ある介護保険の施設へ往診に出かけた時のことであった。その日は普段どおり総義歯の印象を採っていた。そこへあるおばあちやんがやってきて「私の入れ歯も、もう作って相当たつので、物をうまく食べられなくなってきた。できたら、新しく作ってほしい。」との依頼があった。本人から直接依頼があったし、また施設の方も保険証を持ってきてくれたので、その日の内に診査をした。しかし、家族と連絡が取れなかったので本格的な治療は家族の同意を得てからと思ってその日はその施設を後にした。

の後、在宅訪問診療(往診)に出かけると、その患者さんの家族の方(なんでもそこの施設の職員らしい)がえらい剣幕で私の方にやってきた。
「いったい、だれが○×(おばあちやんの名前)の治療をはじめたのですか?」
「○×さん、ご本人から直療依頼があったのですよ」
「本当に、○×が直接言ったのですか?」
「はい、私が他の方の診療をしていた時に、直接診療をお申し込みになりましたよ」
何か、私の方から声をかけて、そそのかしたようなニュアンスだ。
「○×は、今ショートステイで入所しているので、義歯を作ったらショートステイの分が少なくなってしまうんですよ」
「義歯は医療保険で作るので、義歯を作っても介護保険が減ることはないですよ」
「でも、その他のことで介護保険の枠が少なくなるんでしょ」
「私は介護保険では請求しませんし、仮に請求しても医師・歯科医師・薬剤師の居宅療養管理指導は他の介護サービスとは別枠ですから、粋が少なくなることはありませんよ」
「でも、ショートステイ後は、歯科診療所まで送迎しなくちゃいけないんでしょ」
「在宅訪問診療(往診)でお宅までお伺いしますよ」
「でも、保険は効かないんでしょ」
「いいえ、すべて健康保険でしますよ」

こまでいったら、その職員は私をにらみつけて「とにかく、困るんです!」と言い放った。その顔はあたかも「歯医者ごときの介護のシロウトに、何がわかるんだ!」というような顔だった。しかし、こういう無知な介護職員が実際の介護保険の現場にいると思うとぞ〜とする気がする。

気揚揚と受診にやってきた○×さんに事情を話した。○×さんはその家族である件の職員と話をしたがその職員の気持ちは変わらないようだった。その施設を去る時、○×さんは泣いていた。その泣き顔が今でも私の脳裏に焼きついている。
<2002.7.3>

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