僻地に生きる歯科医
ある患者さんの死

間には必ず死がやって来る。昨日まで元気だった人が突然亡くなることもあるし、往診などをしていると朝元気で冗談の一つも言ったのに、夕方に亡くなっている事も何度か経験した。もし、往診の最中に具合が悪くなったらどうしようと思ったことは一度や二度ではない。そういった事故(?)を少しでも少なくしようと様々な努力をしているがこれといった決め手がないのが現状である。だから、往診は苦労の割には報われる部分が少なく、そのせいかどうかわからないが、あれほどみんなこぞってやり始めた往診も今では最盛期の半分にも満たない淋しさである。

つて、私の診療所へ毎月花をプレゼントしてくれた患者さんがいらっしゃった。その方は自分の病気の事を知っており、もちろん余命どのくらいも知っていた。その方は「寿命が自分でわかっているから花作りに専念できる」とおっしゃっていた。その方が亡くなった後も私の診療所では玄関に花をかざっている。今でも花の季節になるとその方のことを懐かしく思い出してしまう。

かし良い思い出ばかりではない。近所に住んでいたある方は生前なかなか地域社会のルールに馴染めなかった。ゴミは指定されていない袋に入れるし、おまけに収集日なんかは関係なく出す。町内会費は払わない。除雪も除雪車が行ってしまってから道路に庭の雪を出す。そればかりではない。診療に来ても予約は守らない、往診の一部負担金や往診交通費は踏み倒す。揚げ句の果てには「金属床の義歯は良いと聞いたが、保険が効かないそうだな!学会などで発表していいからタダでやらないか?」などと持ちかけられたことが何度かあった。でも、亡くなってしまえば、それなりに淋しい。ゴミのことでしょっちゅうもめていた、近所のおばさんにも「死んでしまったもんね〜 もうあの声も聞かれないとなれば、少し淋しいわね」などと言ってもらえる。

かし、中には死んでもとやかく言われる人もいる。隣町に住むAさんなどはその典型であろう。予約などは一度も守ったことはない。問診票を書いて頂く時は必ずといっていいくらいトラブルを起こした。「面倒臭いから、お前の方で適当に書け」「この前来た時に書いたろう」「他の病院ではこんなもん書いたことがないぞ」などといって抵抗する。時には女性スタッフを脅かしたりする。酒を飲んできたこともあった。

然、隣町の歯科診療所はおろか、私の町でもほとんどの歯科診療所がAさんの治療は事実上拒否をしていた。そのくせ、治療中はおおいばりだ。「痛くするなよ」「たかが歯科の治療にどうしてこんなに時間がかかるんだ」言いたい放題である。

ういえば、Aさんの父親もそれ以上にトラブルメーカーであった。診療所の庭の花は勝手に持ちかえる。ウチのスタッフを呼ぶのに、外から石を投げてガラスを割ったこともあった。泥酔して来院して、あやうく警察沙汰になりかけたこともあった。

そらくAさんは父親の行動を見て「歯科医師にはこれくらいしなきゃダメなんだろう」という気持が少しはあったのかも知れない。もしAさんは別の家庭に生まれていたら果たしてあのようなことをしたのだろうか?とふと思った。
<2002.5.1>

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