Vol.1-2001.6

東京都 中学校養護教諭 Y・K

今回、「健康とは」「子どもの成長」「食べることと生きること」等々について、学校保健の推進を主な職務としている、中学校の養護教諭(保健主任と兼務)の立場から、日々の中学生の姿から受ける印象とからめ、お話をさせていただきたいと思います。

成12年6月に「財団法人 日本学校保健会」から「平成10年度 児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書」という冊子が出版されました。報告書はほぼ4年ごとに刊行され、
(1)生活習慣病に関するリスクファクターの調査
(2)ライフスタイルに関する調査
(3)アレルギー様症状に関する調査 の三項目が調査・報告されています。

活習慣病を予防するため、児童生徒の健康状態について実態を把握し、それに基づいた小児期からの正しい健康管理、健康教育が不可欠である今日の学校現場で学校保健に携わる者として、今回は特に興味深かった報告書のコメントについてお話しします。
 「生活習慣病に関するリスクファクター調査結果」『体位』部分を一部抜粋すると、以下の内容の文章が書いてあります。

身長は中学生男子で平成4年度から平成10年度までの7年間に増加する傾向があり、体重は男女とも中学生で増加傾向が見られた。しかし高校生では身長、体重ともに変化は見られず、これは最終身長への到達時期を含めた成熟時期の若年化を示すのかもしれない。

が最も興味を引かれたのは、太字で示した部分です。
 この「成熟時期の若年化」とは、何を意味しているのでしょうか? 確かに思い出してみると、小学校での初経教育は年々低年齢化の傾向にあるし、毎年文部省が出す定期健康診断結果報告でも、以前より変化の割合がゆるやかになる傾向にあるものの、相変わらず体格の大型化が報告されています。

た、平成12年12月に出された「平成11年度体力・運動能力調査報告書」によりますと、体力全体の発達をピーク年齢からみると、平均年齢が男子で16.9歳、女子で14.6歳であることから、この年齢は各個人の生涯における最も体力のある絶頂期に相当していることを意味しているといえるのだそうです。
 以上のことからも、現代の子ども達は確実に大きくなり、且つ、早い時期に成人と同程度まで成長を遂げている姿が見えてくるのではないでしょうか?
 ですが、そこでふと身近にいる子どもたちを改めて見回してみると、わたしの心に一つの疑問が浮かんできます。
「はたして、この子どもたちは体格にみあった心の成長も遂げているのだろうか?」

日、教室の引き戸に体当たりをしてガラスで手を切ってしまった生徒が保健室に来ました。生徒自身に事故の状況を聞くと「走ってて、(ドアの前で)ここまで手を挙げたらガラスだった」という返答でした。もう一年近く生活し、慣れ親しんでいるはずの校舎ですが、本人の説明によると、“あるはずの無い位置にガラスがあった”“大丈夫なはずだったのに…”といった感じで、まるで自分に否があると思っていない様子です。私はこの生徒と会話をしながら、まさに自分の体の成長に自分の感覚がついていっていないという印象を受けました。昔あった「ビック」という映画のように、大人の体を突然もらってとまどっているかのようです。「子ども自身、自分の大きさや強くなった力が分からず、困惑しているのかなぁ?」と思った出来事でした。

「自分の体格、そして今の自分の力は小学生の頃とは違うのだ」という事実に自分では気づけない子どもは、この子以外にも大勢おります。この変化へのとまどい(第二次性徴や思春期と呼ばれる時期)は誰でも一度は通る道ですが、ただ体位の成熟時期が若年化している現代においては、低年齢のうちにこの現実にぶつかることになり、更に対応が難しくなっているのではないかと考えられます。
 子どもなのに体が大きいばかりに大人扱いされる、「見た目は大人 中身は子ども」が最近の中学校には大勢います。

INDEX