味彩通信
Vol.67-2007.3
かすの効用

 例年にない暖冬で、地球温暖化の影響は私たちの生活全般におよんでいるようですね。昨年の大雪、寒波がもたらした被害にも匹敵する悪い影響が出そうな予感がするのは私だけでしょうか? この夏の天気、そして秋の収穫が心配です。

 ここ岩手県水沢もほとんど雪のない穏やかな「冬」の日が過ぎております。我が家の庭のばっけ(ふきのとう)も早々と顔をのぞかせていて、陽だまりにはタンポポも咲き始めています。この調子でいくと去年よりひと月以上も早く自慢の「ばっけ味噌」が食べられそうです。春の山菜類はそのほろ苦さに「冬場に溜まった体内の悪いもの」を出してくれる効果があるのだとか。春さきにこぞって山菜採りに出かけるのは本能なのかもしれません。

 話は変わりますが、日本酒は寒い冬場に仕込まれるものですがこの冬のように気温が高いと新酒の味が左右されるのでは・・・なんて余計な心配をしてしまいます。
 以前、日本酒の醸造元の「蔵見会」に参加して、「船口」から流れ出る絞りたての日本酒を飲んだ感激が忘れられないものですから。舌のうえでぷつぷつ発酵が続くフレッシュな新酒の味は格別でした。
 日本酒を話題にしたのは、今回は「酒粕」をつかった「イカの粕漬け」のレシピをご紹介しようと思ったからです。港町気仙沼生まれの祖母が「酒粕」好きで、よく作ったものの一つが「イカの粕漬け」です。祖母の生家は大きな網元で、おやつには毛がにやイカを食べていたんだとか。
 「いいなぁ」と言ったら、祖母は「でも、キャラメルやビスケットにあこがれていたんだよ」とぽつり。子供にとってはそんなものなのかもしれません。

 「イカの粕漬け」はまず、スルメイカの身の皮をむいてお刺身をつくるように開き、ゆでて冷まします。酒粕に20%ほどの味噌を加えてねりあわせ、先ほどのイカを漬けるのです。2〜3日で食べられますが、私は1週間くらい漬け込んだほうがしっかりとした「酒粕」の旨みがしみておいしいと思います。
 酒の肴に、細く切って供します。噛んでいるうちにスルメとも違ったこくのあるおいしさが口の中いっぱいにひろがります。

 もうひとつ祖母のお気に入りの「酒粕」レシピは「あじゃら」。これは白菜の古漬けと「目抜けのアラ」に酒粕を入れて煮込んだものです。水沢地方では「菜っ葉煮」とよばれています。祖母の時代には食べ物を大切にする、ということでひと冬越して春にすっぱくなった白菜の漬物をこのように利用して食べ切ったんですね。強烈なにおいがして子供の私には苦手なものでした。もっとも最近では「目抜け」も高級魚となってその「アラ」もかなりのお値段がします。

 昔ながらの「捨てずに食べる」エコクッキングもお金のかかるものとなりました。日本酒をしぼったあとに残る「酒粕」、「かす」とは言うものの、その旨みと豊富に含まれるアミノ酸は捨てがたいものがあります。その力は自身のおいしさのみならず漬けた食材にも豊かな「旨み」を与えるのですから。この時季、ぜひこのすぐれた食材を活用してみてはいかがでしょうか?

イカの粕漬けレシピイカの粕漬けレシピ イカの粕漬けレシピ
及川喜久子

及川喜久子さんのプロフィールはこちら


INDEX