味彩通信
Vol.47-2005.3
「魔法」のワカメ

祖母・母からうけつぐ「食」の教え
 1月下旬、まだ春も遠い三陸で水揚げされる「早採りワカメ」をご存知でしょうか?4月頃から本格的に収穫されるワカメのいわば「間引き菜」と言ったところ。若布の若芽、今の時季だけの限定品である。

 1m程の長さをそのままに販売される生のワカメは、産地ならではのぜいたくな食べ方が楽しめる。さっと洗って食べやすい長さに切る。ぐらっときている豆腐のみそ汁の鍋に入れる。すると茶色だったワカメが一瞬にして鮮やかな緑色になり、磯の香がいっぱいにひろがる。4歳の時に息子はそれに「魔法のワカメ」と名付けた。

 普通、大きく生長したワカメは茎の部分を縦長に取り除いて加工・出荷される。ところがこの「魔法のワカメ」は茎がそのまま付いているのでその「コリコリ」とした食感がなんともうれしい。まさに「春の噛み心地」とでも言うべきか。最近話題の「海藻フコイダン」が含まれているのだろうか、からだにやさしい食感なのだ。

 祖母が宮城県の気仙沼出身ということもあって、魚介類や海藻は、私が物心ついた頃には既に常に食卓にあった。暮れから新春の「年越し魚」「自家製イカの一夜干し」「なまこ」「生ふのり」そして「生ワカメ」と季節は進み、初春にはアサリを代表とする貝類が登場する。「釜揚げシラス」の中に小さなイカやエビが混じって入っているのが楽しみで、箸の先で探してはつまんで食べたものだ。

 そんな思い出の中にはいつも祖父母の「うんちく」があった。鯛型の魚のあごの辺りには「鯛の鯛」がある、と教わった。なるほど食べ進むとかわいい魚の形をした骨が出てくる。圧巻は自家製のイカの一夜干し。夜になると「光ってるから見ておいで」と言われて恐る恐る外の物干し竿をのぞいたものだった。開かれて、夜の闇のなかで怪しげに光りながら並んで吊るされているイカたちは、まるでオーロラを映す小さなスクリーンのようだった。そんな「魔法」で子どもの興味をひき食べ物に感謝して大切にいただくことをたたきこまれた。

 できたてのほかほかの煮物を「お味見」させてくれた母も懐かしい。それは「昭和」の家族の食育だったのだろう。刺激的な楽しみに目覚め、只今ゲームに夢中の息子も、私の「あっ!シラスにチビタコが入ってる」なんて一声で食卓に飛んでくる。いつまで「食の魔法」の効力が続くのかしら?と思いつつ、とにかく楽しく・おいしく自然に感謝して食べることを「食育」の原点として、子ども達に伝えていきたいと考えています。

及川喜久子

及川喜久子さんのプロフィールはこちら


INDEX