味彩通信
Vol.41-2004.7
ガムのつかいみち

 漫画「三丁目の夕日」をご存知だろうか?
 あの昭和三十年代の頃を想像しながら、私の「おはなし」を読んでいただきたい。

 当時、祖母の実家は気仙沼で手広く商売をしていた。経営していた映画館は娯楽の中心で港町の活気をいっそう盛り上げているようだった。

 東映の時代劇、日活の青春物、洋画、小学生の私にはまだまだ早いものばかりであったが、大人たちの目を盗んでは見たものだった。その近所に懇意にしていた食堂「伊勢浜」があった。
 生島ヒロシ氏の実家である。夏休み・冬休み、祖母の実家に泊まりに行くとよく一緒に遊んだ。野球、水泳は彼から教わった。

 小学3年の頃だったと思うがヒロシちゃんが小学校のプールに連れてってくれるという。「伊勢浜」に彼を誘いに行くと「ちょっとまって」と言って冷蔵庫を開けてなにやら取り出した。「みみせん」と言って見せてくれた物はかんだあとのガム。冷蔵庫で冷やすと「耳栓」になるんだそうな。

 家庭には大きな冷蔵庫などない時代、食堂「伊勢浜」の大型冷蔵庫は私にとっては大いなるあこがれであった。
 その冷蔵庫からうやうやしく「ガムの耳栓」を取り出したヒロシちゃんの姿が今も「三丁目の夕日」の絵とダブって浮かんでくる。
 人をひきつける魅力のある少年だった。

 1860年代にアメリカで商品化されたガムは、日本では明治末頃に製造に成功、販売をはじめた。第二次世界大戦後、進駐軍の影響でアメリカ製のガムが流行、多くの日本メーカーもあらわれる。昭和30年代には新製品が次々と発売され昭和40年代にはキャラクターものが多く発売された。
 ちなみに、「マグマ大使ガム」「パーマンガム」「黄金バットガム」「ハレンチ学園ガム」など当時の人気TV番組を思い出させる。
 最近では「キシリトールガム」など、単なるお菓子ではなく健康補助食品とでもいえる製品が注目されている。

 ガムの効能は皆さんご承知のとおり虫歯予防・ガン予防・ボケ予防・ダイエット効果と良いことずくめである。特に私が注目するのは「かむ」と言うこと。ハンバーグなど「やわらか食品」が子供達のお好みになってからというもの、「アゴ」のほっそりとした若者が増えてきた。いや、もう若者をすぎて子供を育てる世代もである。「かむ」ことが脳の血流や唾液の分泌を促進して前出の効果につながるのは言うまでも無い。大リーグの映像にはガムを噛みながらバッターボックスに入る「リトル松井」が映しだされる。

 北欧のどこかの国の小学校では「歯磨きタイム」ならぬ「ガムタイム」がある、ということも聞いた。日本じゃ、できないだろうな当分。

及川喜久子

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